俺屍学園・第三話『十分すぎるほどいい女だと思う』

その日、部活はなかったのだが、お菓子作りの練習のために家庭科室を借りたかった蜜香は、調理器具の入った棚の鍵を管理している蛍の元に、友人の聖英とともに鍵を借りに来た。
蛍は蜜香の頼みを快く引き受け、一緒に家庭科室へとやってきた。
蛍はどの棚の鍵がどれなのかを説明し、蜜香に鍵の束を差し出した。

「鍵、お渡しておきます。用事が終わったら祟良先生にご連絡してくださいね。戸締まりをなさるはずですので」

「ありがとうございます。用事があったみたいなのに付き合わせちゃってすみませんでした」

蜜香は申し訳なさそうに頭を下げた。
蛍はそんなことないと言うように、手を振った。

「あ、謝らないでください!全然大丈夫ですから!」

蛍はそう言って蜜香に笑顔を見せた。
蜜香は蛍の様子を見て安堵の表情を浮かべた。

「蛍先輩、用事ってデートですか?」

聖英はニヤリと笑顔を浮かべて蛍に問い掛けた。
すると蛍は赤面して慌て始めた。

「え!?あ、はい、えっと…デート、です…」

蛍は恥ずかしそうに顔を赤らめながらも嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
その時、ドアが勢い良く開き、黄川人が顔を覗かせた。

「蛍、用事は済んだの?」

蛍は黄川人の姿を見るなり、満面の笑顔を浮かべた。蛍はすぐさま黄川人に駆け寄った。

「黄川人様!はい、もう大丈夫です」

「じゃあ、映画見に行こっか」

黄川人はさり気なく蛍の手を取った。
蛍は嬉しそうに頷いた。

「では、失礼いたしますね」

蛍は二人に会釈して黄川人とともに家庭科室を後にした。

二人が去った後、蜜香は料理の準備を始めた。
材料を見るとお菓子を作るようだ。
きびきび準備をする蜜香を横目に聖英は椅子に座った。
どうやら聖英は特に料理をする気はないようだ。

「いいよね、蛍先輩。年上のイケメン彼氏がいて!何かキラキラしてたし。あー!私も年上のイケメン彼氏が欲しい!!」

「聖英ちゃんならすぐにできるわよ」

蜜香は準備を続けながらも聖英に視線を送り微笑みかけた。

「そう!?じゃあ、頑張っちゃおっかな!?」

聖英は気合いを入れるように右手の拳で左手をパンと叩いた。

「ところでさぁ、蜜香もキラキラしてるよね。恋しちゃってる感じ?」

聖英の質問に驚き、蜜香は思わず持っていた小麦粉をこぼしそうになった。
何だか迷った様子で少し黙り込んだが、しばらくの沈黙の後、蜜香は口を開いた。

「…ええ。ずっと好きな人がいるわ。…片想いだけど」

「マジ!!誰誰!?あ、もしかして、諒!?」

蜜香は聖英の問い掛けに首を振った。

「違うわ。諒くんはそんなんじゃないの。…私が好きなのは私よりずっと年上の大人の男性よ」

蜜香はそう言ってどことなく暗い表情を浮かべた。
聖英はその様子に気付いたのか、それ以上深く追求はしなかった。



*



「うわ〜、超美味しそう!!」

聖英は蜜香の作ったケーキをまじまじと見つめた。

「ありがとう。良かったら食べない?」

蜜香の提案に聖英は驚きの表情を浮かべた。

「え?いいの!?だって、誰かにあげるつもりとかだったんじゃないの?」

「今日のは練習だから、遠慮しないで」

「じゃあ、お言葉に甘えます!!…お母さんときよぽんの分も貰ってってもいい?」

聖英の頼みに、蜜香は快く頷いた。

「もちろんいいわよ。好きなだけ持って帰って」

「やったぁ!!蜜香のお菓子ってすっごい美味しいから嬉しいよ!!」

「そう言ってもらえて嬉しいわ。聖英ちゃんの分はここで食べていく?」

「うん!」

「じゃあ、紅茶淹れるわね」

蜜香は立ち上がり、支度を始めた。



*



ケーキも食べ終わり、片付けも済ませたので、蜜香は祟良の元に戸締りを頼みに行き、その後家路についた。
蜜香は聖英と家が逆方向のため、一人で帰り道を歩いていた。

「蜜香ちゃん」

聞き覚えのある声に振り向くと、足早に諒が歩いてきた。

「一緒に帰ろう」

諒はそう言って蜜香に笑いかけた。
蜜香もそれに応えるように笑顔で頷いた。

二人は並んで歩き始めた。

「蜜香ちゃんも部活?」

「今日は自主練よ。パティシエになるためにはもっと頑張らないと。…あの人に相応しい女性になるためにも」

凜とした表情の蜜香が諒には何だか眩しく見えた。
そして同時に胸が痛んだ。

「…俺はさ、蜜香ちゃんは十分すぎるほどいい女だと思う。パティシエとしてはよくわからないけど、それだけは絶対保障する。だからもっと自信を持っていいんじゃないかな」

蜜香は一瞬戸惑ったが、諒の言葉が素直に嬉しくなり微笑んだ。

「諒くん…。ありがとう、何だか自信がわいてきたわ」

蜜香の笑顔に諒は何だか照れてしまって、無意識に頬をかいた。 そして、好きな人の恋の応援をしてしまうなんて、自分はつくづくお人好しだなと思った。
でも、蜜香に幸せになってほしいという気持ちは本物だったから、 彼女の恋を応援したことに後悔はなかった。
ただ、自分で幸せにしてあげられないことが残念でならなかった。

「…蜜香ちゃんもその人に気持ちを伝えなよ?じゃなきゃ、絶対後悔するから」

「うん。絶対伝えるわ…!」

雲一つない空には満天の星が輝いていた。
まるで二人の未来を照らすように満月の光が二人を優しく包んでいた。


【今回の登場人物】
高乃原 蜜香さん/高乃原 諒さん(咲也様宅)
七 聖英(七夜宅)
日向 蛍さん/黄川人さん(シラトリハナ様宅)

*******

シラトリ様宅の俺屍企画の小説です。
公開された当時、拙宅の聖英が、シラトリ様宅の蛍さんと、咲也様の密香さんとお話している…!と感動して、お二人を攫って一枚描いてしまいました…(笑)

用事ってデートかと聞かれて「デート、です…」と素直に返事する蛍さんが可愛くて…!
切ない片思いをしている密香さんと、そんな密香さんに想いを寄せながら応援する諒さんが切なくて…!
一粒で二度美味しい小説です…v
ウチの聖英が実に聖英らしいのも…画面の前で吹き出しておりました。なんで、彼氏作ろうって話なのに「右手の拳で左手をパンと叩」くのか君は…!どこに彼氏を狩りに行く気なのやら…。

多分この日、聖英が持って帰ったケーキは、母親の珠英と、たまたま帰ってきていた祖父の真秀(甘党)に美味しく頂かれてしまい、聖秀は涙にくれるのでありました…(笑)

シラトリ様、可愛くて切ないお話をありがとうございました!
俺屍学園の企画サイトはこちら→俺屍学園  シラトリ様のサイトはこちら→stella

back

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送