不遣の雨

 己の心情が影響したらしい。
 屋敷の外は雨が降っていた。
 愛する人を帰したくないかのように、雨がしとしと降っていた。


 瀬里は雨が降る屋敷の庭を眺めていた。

 砂乃と過ごした交神月がもうすぐ終わる。

 瀬里にとって充実していたこの月が終わってしまう。砂乃と過ごす時間が終わってしまう。
 流れる時間がこれほど憎いと思ったことはないが、時を止める術はない。
 引き止められればいいのに、と思う。だが、砂乃には地上でなすべきことがある。氏神である自分が引き止めることは許されない。
 ギりッと歯噛みすると、雨の降る量が変わった。
 瀬里は雨が本降りになってしまったのを見て、自嘲の笑みを浮かべる。
「俺は情けないな」
 このひと月はとても楽しく、久しぶりに心の底から笑うことができた。
 北天ノ神守というより、神守瀬里という一人の男として、過ごした充実した日々だった。それを失うことを嫌がっている自分が、本当に情けないと感じている。

 単なる思い出になるのは――――――嫌だ。

 いつも傍にいて欲しいと叫びたい。

 共に日々を過ごして苦楽を分かち合いたい。

 君を生涯の伴侶と決めたから。

 瀬里はグッと拳を握り締める。
 どんなに心の内にある想いを声に出したかったことか。
 しかし、自制しなければ、砂乃を困らせる。
 そんなやり場ない想いを反芻し続けた結果、それが外へと影響し、雨を降らしている。
 瀬里は屋敷の中へと視線を戻した。視線の先にある部屋で、砂乃は帰る準備をしていた。
 深呼吸してから、心に決める。

 彼女が地上に戻る時、言葉にしよう。

 自分の想いを形にした言葉ではなく、砂乃が地上で迷いなく戦える言葉を贈ろう。

 砂乃の為にも。

 瀬里自身の為にも。

 必要な言葉を贈ろう。
 愛する君がありのままに生きていけるような言葉を贈ろう。


「君は君らしく、誇り高く、強く――――――生きよ」

 瀬里は最高の笑顔と共に、砂乃が迷いなく未来へと進める言葉を贈った。


咲也様宅・神守家より、拙宅・百歌家にお婿に来て頂いた”北天ノ神守様”こと瀬里(セリ)さんと、百歌家の娘・砂乃(サゴノ)の交神月のお話を、咲也さんが書いて下さいました!
二人の顔グラは、瀬里さんは、男22(下4右1/水髪水目火肌)で、砂乃は、女19(上3左1/土髪水目水肌)です。このページの背景カラーは、和色大辞典より、瀬里さんの髪と目の色である薄藍色にしております。

砂乃は、素那の孫に当たる子です。
二人の交神に関しては色々ありまして…砂乃は瀬里さんに対して、中々素直になれなかったのですが、男前な瀬里さんは、そんな砂乃を気に入ってくれて「生涯の伴侶」とまで思ってくれました。そんな二人の、交神月が終わる直前のお話です。
まだ砂乃が氏神として上がれるかどうか分からない時期だったので、瀬里さんは、砂乃を「帰したくない」と思ってくれていたのだそうです。多分、砂乃も瀬里さんと別れ難い気持ちで居たと思います。けれど、そんな事言ったら「瀬里に心配かけるし、迷惑かけるかもしれないし…困らせたくない」と、そう言う気持ちは表に出さないようにしていました。
機会があれば、砂乃側のお話を書いてみたいと思います…v

咲也様、素敵なお話をありがとうございました!
咲也様のサイトはこちら→碧空明々なり!

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