ハート・フル


「…ハートフル…ポッキー?」
聞きなれない単語に首を傾げる。
「そ、名前の通りハート型でね、可愛いのよ〜」
思わず買って来ちゃった、と言いながら嬉しそうにカネが箱からポッキーを取り出す。
「あ、芯がハートの形しているんだね…」
最近は味だけじゃなくて、本体にも色々と工夫したものが出てるんだなと感心する。ピンク色の苺チョコレートに包まれたハート型のポッキーは、確かに可愛い。女子高生とかこういうの好きなのかなぁ…と思いながら箱を眺めていると、
「えっちゃん」
名前を呼ばれる。顔を上げると、カネがポッキーの端を咥えて、ニコニコと私を見ていた。
「…うん。可愛いね?」
カネが楽しそうだから、嬉しいなと思って返事をする。
「そうじゃなくて」
「え?」
苦笑しながら、カネは、咥えていたポッキーを一旦手に取って、
「ポッキーゲーム、知らない?」
そう言って、楽しそうな様子で私の顔をじっと見る。
「ポッキーゲーム?……あ。あの、CMとかで見るポッキーを端っこから食べる、遊び…?」
「うん」
頷いて、カネはもう一度ポッキーの端を咥えてこちらを見た。
「……ポッキーゲーム、するの…?」
訊ねるとカネは二度大きく頷く。
「……ええと…い、いただきます」
私がそっとポッキーの端を咥えると、ちょっと笑って、カネは目を閉じた。

サクサクと音を立てながらポッキーを少しずつ食べ進める。ほんのりと甘いイチゴ味。美味しいけれど、慣れない沈黙が、何だか気恥ずかしい。

――…そう言えば、これ、最後まで食べたら…キス、してしまうんじゃ…

ふと、そんな考えが頭を過って、食べる口が止まる。
そっと見ると、カネは軽く目を閉じたまま、じっとしている。

――ポッキーゲームって、直前で止めるんだっけ?それとも、最後まで食べて、良かったんだっけ…?

口を離したらいけなかったような気がするけど、でも…。

――…キス、してもいいのかな…?

カネがそういうつもりじゃなかったらどうしようとか、目を閉じてるのはしてもいいって意味なんだろうかとか、やっぱり直前で止めるべきなんだろうかとか、考えれば考えるほど分からなくなって、先に進められなくなってしまった。

「んー?」
私が止まった気配を感じたのか、カネが目を開けて、どうしたの?と言いたげにこちらを見る。
慌てて、なんでもない、と目で返事をして、更に食べ進めようと力を入れたら、

 ポキン

と、ポッキーが折れてしまった。折れた口もハート型で。
「あ…」
思わず落胆とも安堵ともつかない溜息が漏れる。

「ふふ…折れちゃったわねー」
折れた端を器用に唇だけでひょいと食べて、カネは笑う。
「じゃあ、えっちゃんの負けだから――」
そのまま私を抱き寄せて、軽くキス。
「――ふふ、罰ゲームー」
…負けてキスは「罰ゲーム」じゃないよ、と小さく返事をする。 「そっか、じゃあ、何してもらおうかなー」
と、嬉しそうにカネはまた笑った。



20121130

ハート型のポッキーと言うのがあるらしくてですね。
でも芯がハート型なので普通にポッキーゲームしたら、ハート型見えないねって話になって。じゃあ、ポッキーゲームの途中に折れちゃった、みたいな場面だったら、ハートが見えるんじゃないかしら、って結論になって。
ええと…絵か漫画で描こうとしたら挫折しました…(苦笑)

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