熊飛と四夜子さま/2014.6.

2014年5月からのトップ絵。
七家の熊飛(ゆうひ)と、嫁の葦切り四夜子様です。二人の交神月が1019年5月だったので。交神月の終わり頃に、熊飛が「そろそろ藤も盛りが終わりの時期ですね」と言うと、藤と言うものを見た事がない…と四夜子が言うので、藤の花の綺麗な場所に抱いて連れ出した場面です。誘い出す時に「藤の紫は、四夜子様の髪のように綺麗な色ですよ」と言うと、「私…自分の顔は、見ないです…」と四夜子様が答えるので、「おや…そんなに可愛らしい姿なのにもったいないですね」とニコニコしながら顔を覗きこんで(素)四夜子をどぎまぎさせてるといいです。

熊飛は、初代と熊祖権現との間に生まれた第二子で、双子の兄でした。弟の名前は熊歩(ゆうほ)と言います。第二子・三子が双子で、第一子の子(初代にとっては孫)も双子だったので、七家は序盤から家族が多い一族でした。



以下、熊飛と四夜子様に関するちょっと長い語りです。
いつか本にしようと思ってたネタ供養。

 熊飛の交神相手を決めたのは、熊飛の兄である秀(ひで)でした。秀は1019年の3月末に当主を継いでいます。その翌月に熊飛・熊歩が元服しました。二人の性格を考えて、秀は、熊飛には交神して血を残してもらい、熊歩には交神はさせずに当主を継がせようと考えます。
 どちらかと言えば、華やかで話しやすいお姉さんタイプの女性が好きな熊飛に、「外見の好みでお相手を選ぶものじゃない」と、秀は素質などを優先的に考えて、熊飛の交神相手を四夜子に決めてしまいます。熊飛の方も、交神は別に恋愛でもなんでも無い(基本儀式のみで子を授かります)ので「まぁ、兄さんの選んだ相手なら、間違いは無いでしょう」とそれを承諾しました。ちょっと幼い外見の女神様だけど、可愛いらしい方だとは思ったので、友達になれたなら楽しいかなーなどと思いながら。

 さて、七家の四夜子は、生前の出来事が原因で歩けない、外にも出たがらない、黙って貝の中に閉じこもっている消極的な女神様でした。実際に顔を合わせてみると、四夜子は話しもしたがらないし、何を聞いても返事は「はい」か「大丈夫です」とだけで会話もはずみません。どちらかと言うとおしゃべりが好きな熊飛は、交神月半ばにはちょっと退屈していました(七家では儀式交神には丸々一ヶ月近くかかります)。
 様子を見に来たイツ花と久しぶりに会話しながら、熊飛は「四夜子様はどういう神様なのか?」と尋ねます。「いくら話をしようとしても、四夜子様の人となりが全く分からない。血を継ぐのは大事な事だと思うから、儀式はちゃんとするが……このままでは生まれる子を、四夜子様に安心して預けられない」と。熊飛は、人だから、神様だからと言う事で線引きはせずに、彼女が自身が信頼できる相手かどうかを知りたいと思っていました。そして、本人は気付いていませんでしたが、四夜子について「知りたい」と思うほど熊飛の中で四夜子の存在は大きなものになっていました。
 その熊飛の言葉を受けて、イツ花は、「私も伝え聞いた話でしか知りませんが…」と、四夜子の過去の話を、何故彼女が神の一柱となったのか、なぜ「葦切り四夜子」と言う名がつけられたのかを語ります。


「葦切り四夜子様は、元は人であった方でした。108神の中でも比較的新しい神様です……」
 とイツ花は語り始めます。

 彼女が「葦切り四夜子」となったのは、今よりもずっと昔。京にまだ都がなく、帝と言う存在も無く、豪族と呼ばれる小さな部族の集まりが各地で小競り合いをしていた時代です。水が豊かな葦原の側の小さな邑の、水守の一族に彼女は生まれました。水守とは、葦原の水が枯れないように、代々水神に祈りを捧げる役目を担っていた一族です。
 ある時、日照りが続き、葦原の水が少しずつ干上がり始めます。最初、邑の人間達はそのことを気にも留めませんでした。皆が知る限りでは、葦原の水が枯れた事は無かったからです。少し雨が降らない程度で、葦原の水が干上がるとは誰も考えていなかったし、今まで水を枯らしたことの無い水守への信頼もありました。
 しかし、その後も日照りは続き、やがて、葦原の水が本格的に枯れ始めます。水を巡って諍いが度々起こるようになると、不満は一気に水守の一族へと向けられます、水守が役目を怠ったのではないか、水神を怒らせるようなことをしたのではないか、それとも水守が水を独り占めしようとしているのではないか…そのように皆考えました。やがて、「水神様を怒らせた水守の一族から贄を出すべきだ」「そうして水神様の怒りが鎮めると雨が降るだろう」と声が上がりました。それはとても「正しいこと」であるように思われました。役目を果たさなければ責任を取るべきだと、皆が思いました。
 そして彼女は皆に捕らえられ、水神への贄として、逃げ出さないように脚を切られて葦原に打ち捨てられます。
 ほとんど水が無くなった葦原の真ん中で、乾いた土の上で、枯れた葦に抱かれて、彼女は、自分のことよりも、ただ、腕に当たる乾いた土が、頬に張り付いた枯れた葦が、悲しいと思いました。
 そうして、四日四夜、彼女は、生きていました。
 水守の一族全てに、特別な力があると言う訳ではありませんが、彼らが守ってきた葦原は神気が宿る場で、その力を受けて彼女は人よりも強い生命力を持っていました。
 四日目の夜、彼女に語りかける声がありました。

 ――お前がその力を差し出すならば、お前の望みを一つ叶えよう

 彼女は、ここが元の綺麗な葦原に戻って欲しいと思いました。それだけの為に生きて、その為に死に向かっているので、それ以外の事は考えられませんでした。声はそれを聞き届けました。葦原に久しぶりに雨が降り、そして、彼女は人としての生を終え、「葦切り四夜子」として天に迎えられました。
 四夜子の望みを叶え、彼女を天へと召し上げたのは、当時の天界最高位の太照天夕子でした。こうして夕子の手によって神となった者は神格はあまり高くはありませんが天界には数多く居ます。


「……四夜子様は、ご自分がしたいことがわからないのだと思います」
 語り終えたイツ花は、そう言いました。
「わからない?」
「はい。イツ花はそう思います。ずっと、ご自分の役目を果たそうと生きてきて、役目を果たして亡くなって。神様になってからはお役目も無く、何をすればいいのかわからないくて、自分から動けないのだと思います」
 決して熊飛様の事をお嫌いでは無いのだと思いますよ、と付け加えて、イツ花は地上に戻りました。


 イツ花の最後の言葉を聞いて、熊飛は自分が四夜子の事を知りたいと思っていたのは、彼女に好意を持っていたからだと気付きました。
 生前の四夜子の最期は哀れなものとは思いましたが、彼女自身はそれをなんとも思っていないので、同情するのは違うと思いました。これから先も神として永い時間を生きていく四夜子に、あと一年もしないで死んでいく自分は何を残せるだろうかと、考えます。

「俺、四夜子様にわがまま言ってもいいですか?」
 イツ花の話を聞いた翌日、熊飛はそう話を切り出しました。「わがまま、ですか?」と不思議そうに繰り返して、頷く四夜子に笑いかけて熊飛は言葉を続けます。
「俺は四夜子様が笑ったらもっと可愛くなると思ってます。だから、もっと笑って下さい。それで、四夜子様は俺に沢山わがまま言ってください」
 そう言って四夜子を抱き上げて、また笑いました。
 これが、四夜子が自分で「したいこと」を考えるきっかけになればいいと熊飛は思いました。

 交神月の後半は、熊飛は今まで以上に四夜子に話しかけ、可能な限り天界の色々な所に出かけるようにしました。
 四夜子の方は熊飛の行動に最初はかなりとまどいましたが、すこしずつ心を開いて笑顔を見せるようになります。ただ、熊飛の言う「わがまま」にどんな事を言えばいいのかわからずに、自分が何をしたいのか、誰かに何かをして欲しいと思った事があるのかを次第に考えるようになります。

 二人の間には娘が生まれました。交神月が終わる頃に女子だと聞いて、熊飛は「四夜子様の名前を一文字頂いて『四英』と名付けてもいいですか?」と言います。
 「四英、ですか?」
 「はい。四夜子様の『四』と、私の母の名前の『英』で、四英です」
 一月が過ぎ、来訪した四英は瞳の色が四夜子似で、熊飛はそれをとても喜びました。そして、娘から四夜子が出来るだけ自分で子の世話をしようとしていた事、世話をする為に少しずつ歩く為の特訓を始めた事を聞いて嬉しく思いました。

 熊飛が亡くなった時には、四夜子が見送りに来ていました。可愛い強い娘を授けてくれてありがとう、と言う熊飛に、四夜子はちいさな声で、
「また……いつかお会いできますか?」
 と尋ねます。四夜子が熊飛に初めて発した願いでした。
 四夜子の言葉に「あなたが望むなら」と優しく四夜子の髪を撫で再会を誓いました。

 
 熊飛は、氏神として上がることなく亡くなりましたが、七家の終盤、太照神昼子の息子として熊飛と同じ顔グラ、同じ火髪の子が生まれてきまして。七家最後の、七家最上位の氏神”七大権現”として昇天し、四夜子と再会しました。



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